九州大学農学部北岡研究室 九州大学農学部北岡研究室 九州大学農学部北岡研究室

酵素・生物工学

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 植物や微生物は外的環境に応じて、それぞれが独自の二次代謝機構を発達させてきました。その過程で蓄積された天然二次代謝物質の化学的・構造的多様性は計り知れず、魅力的な生物活性を有する化合物も数多く存在することから、医薬シード化合物の探索資源として、その重要性が強く認識されています。近年では、二次代謝物質の生合成を触媒する「酵素」そのものに注目が集まり、酵素工学的なアプローチや生合成マシナリーの再構築による「有用二次代謝物質の高効率かつ大量生産」ならびに「生理的機能と生合成機構の解明」に向けた生物工学的研究が進められています。

 

 天然二次代謝産物の生合成マシナリーは生合成関連酵素群により精巧に構築されている一方で、中には寛容で広い基質特異性や潜在的触媒能を有する酵素も多数存在します。そこで、新たな酵素機能の探索・発掘は、高効率な有用物質生産に加え、天然にない新規化合物の創出をも可能にすると考えられます。酵素・生物工学班(E班)では、酵素工学・遺伝子工学技術を駆使して、糸状菌が有するシトクロムP450モノオキシゲナーゼを中心に、様々な酵素の物質変換能・物質産生能を探索するとともに、有用・新規化合物の微生物生産を目指しています。具体的には、以下の3つの研究テーマに取り組んでいます。

 

 

 

糸状菌シトクロムP450の機能スクリーニング

糸状菌由来P450の機能ライブラリーによる迅速なスクリーニング

 位置・立体選択的な酸素添加反応が可能であるシトクロムP450酵素を用いた有用物質生産が注目されていますが、多様化した真核微生物P450の中から目的の触媒機能を持つP450を見つけ出すことは極めて困難でした。本研究室では、5種の糸状菌(Phanerochaete chrysosporium, Postia placenta, Aspergillus oryzae, Trametes versicolor, Thamnidium elegans)から合計615種類ものP450を取り出して酵母に異種発現させた基質変換スクリーニングシステムを構築することに成功しました。このスクリーニングシステムを利用することによって目的化合物に触媒活性を有するP450の探索を迅速に行うことが可能となります。これまでに、安価な化学物質や豊富な天然物から難合成化合物を生産するP450を多数発掘しています。また、未だ獲得できていないP450の獲得によるライブラリーのさらなる拡充も同時に試みています。

 

担子菌の代謝能を活用したモノづくり

担子菌機能ライブラリーを用いた有用物質生産

 セスキテルペノイドは、その構造多様性に起因する多彩な生物活性が報告されており、創薬シード化合物の豊富な探索資源として注目を集めています。その生合成経路においては、セスキテルペン骨格合成酵素によって多様な基本骨格が形成され、シトクロムP450酵素などによる修飾反応を経て、より多彩な構造の天然物へと導かれることが明らかとなっています。本研究では担子菌の秀でた代謝能に着目し、様々な担子菌から骨格合成酵素とP450を獲得し、それらを網羅的に組み合わせて酵母に共発現させることで、生物種の壁を超えた新規・有用・希少セスキテルペノイドの創出を目指しています。現在、さらなる酵素群の拡充やその利用に向けた研究を進めており、創薬シードや香料への応用に期待がもたれます。

 

シトクロムP450を活用した高付加価値物質生産

糸状菌P450を活用した有用物質生産および生物活性探索

 近年、位置・立体選択的に水酸基を導入することができるP450を利用したモノづくりに注目が集まっています。本研究室では、担子菌が独自に産生するセスキテルペノイドの生物活性や香気性に焦点を当て、P450を用いて高付加価値物質の生産を目指す研究を行っています。イルダンタイプのセスキテルペノイドは抗腫瘍活性をはじめとする高い生物活性を有するものが多く見出されており、糸状菌P450を作用させて得られる誘導体の生物活性探索を進めています。また、香料成分については、絶滅危惧種の植物から得られる希少成分の人工合成や、新規香料成分の獲得を目指した研究を行っています。

 

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