九州大学 大学院農学研究院 森林資源科学部門 生物材料機能学講座 生物資源化学分野

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Biomaterial班(B班)

 生命と糖鎖は密接にかかわっています。生物体の器を構築する「構造性糖鎖」、生体内の情報機能を司る「機能性糖鎖」、生命のエネルギー源である「貯蔵性糖鎖」など、生命と糖鎖は不可分な関係性にあります。ナノ・バイオ技術の発展から機能性糖鎖のエンジニアリング的研究が、一方で環境・エネルギーの課題解決に向け、貯蔵性糖鎖からのバイオエネルギーの開発が盛んに行われています。しかし、構造性糖鎖については、建材、繊維・紙、安価な高分子材料など、旧来的なバルク・化成品利用がほとんどでした。
 
 近年、循環型生物資源の主役であるセルロースをはじめとする構造性多糖分子の規則的な高次構造形成機能に注目が集まっています。これらの生体高分子は触媒作用や情報伝達などの能動的機能に関与しないと考えられていますが、生体内において自己組織化・自己集合化機能を持ち、精緻な高次構造を構築します。Biomaterial班(B班)では、構造性糖鎖分子のナノ構造化機能そのものを生体機能として利用するために、糖鎖合成から分子配列まで人為的な構造制御を施したバイオマテリアルの開発を行っています。具体的には、以下の3つの研究テーマに取り組んでいます。
   

1. 非水系酵素触媒反応による天然・非天然糖鎖の合成


 糖鎖は核酸やタンパク質に次ぐ第3の鎖状生命分子として、細胞の接着・分化誘導・免疫などのシグナル伝達に重要な役割を果たしています。近年、その生理機能を材料利用する糖鎖材料工学に注目が集まっています。しかし、反応性類似の水酸基を複数持つ糖鎖の精密合成は一般に困難であり、糖鎖合成技術のさらなる発展が希求されています。
 
 本研究では、特殊な構造のノニオン性界面活性剤であるdioleyl-N-D-glucona-L-glutamateで表面被覆した酵素(Surfactant-Enveloped Enzyme: SEE)を非水系溶媒中で用いることで、単純な構造でありながら長鎖合成が困難であったセルロースの非水系酵素合成に成功しました(重合度100以上)。本手法は、酵素による厳密な位置・立体選択性の制御に加えて、糖鎖のアノマー炭素の活性化が不要で応用範囲がきわめて広いです。また、生理活性糖鎖のガラクトースを非還元末端に持つラクトースを用いた非天然糖鎖や非水溶性の配糖体の合成も可能で、様々な糖鎖材料の機能開発に展開しています。
  

2. 分子鎖ベクトルを制御した自己組織化多糖膜の設計


 物質のナノ表面は、エネルギー状態の違いからバルクとは異なる物理化学的性質を示します。近年、様々な固体材料において、ナノ界面制御に基づく新材料開発に注目が集まっています。これまでバルク利用が主であったセルロース系多糖分子についても、そのユニークな分子集合化特性を活かした新規な界面機能の創出が期待されています。
 
 本研究では、セルロース系多糖分子の長軸異方性に着目し、その還元末端のみを選択的にスルフィド修飾することで金基板上への自己組織化を促し、分子鎖ベクトルが同一方向に配列した多糖分子配向膜を構造設計しています。これにより、これまで不可能であった天然セルロースI型結晶の人為的再現や、メチルセルロースの熱応答的相転移現象を界面自由エネルギーの変化として膜状で制御することに成功しています。さらに、多糖配向膜の構造的・機能的特徴を利用して、細胞培養基材としてのバイオ機能も見出しています。この技術の応用により、金ナノ粒子表面に糖鎖を集密化させることも可能で、バイオセンサーなど様々な生体機能材料としての機能創出に期待が持たれます。
 

3. 糖鎖系バイオインターフェースの開発と新機能創出


 細胞工学分野において、糖鎖系バイオインターフェースの開発が盛んに行われています。しかし、細胞との相互作用において鍵となる糖鎖構造の配列・集密化を膜界面の分子レベルで制御するには至っていません。そのため、構造性多糖分子固有の規則的な分子集合化機能を、機能性糖鎖分子のナノ構造制御素子として利用する新規バイオインターフェースに注目が集まっています。
 
 本研究では、非水系酵素触媒反応を介してセルロース膜表面にラクトースを導入し、機能糖のガラクトースが集密化した新規な糖鎖系バイオインターフェースを開発しています。通常、酵素反応で固体表面を糖鎖修飾することは非常に困難ですが、セルロース分子の強い相互作用とSEEの高い溶媒耐性を駆使することで、セルロース良溶媒中でセルロース分子を溶かすことなく、その膜表面のみにラクトースを導入することに成功しました。ガラクトースを認識するラット肝細胞の特異的な細胞接着も確認されており、新規な糖鎖系バイオインターフェースとしての機能開発を目指しています。